バレンタイン?そうだ、王を称えよう。

※この文章には王の称えバレがあります。まだ王を称えていない人は王を称えてからお読みになる事をお勧めしま王を称えよ!(大声)



恋人たちの守護聖人、聖ウァレンティヌスの逸話には諸説あるが、やはり有名なのは、禁じられていた兵士の結婚式を執り行い、処刑された事だろう。自らの正義を信じ、愛のために血を流す。おいおい、そんなのバーフバリじゃないか。バレンタインデーはバーフバリだったんだ。

と言うわけで2月14日、バレンタインデーに「バーフバリ 王の凱旋」を観てきた。

映画でも何でも、私が情報を入手するのは主にツイッターなのだが、昨年末頃にタイムラインが急にマサラめいた時期があった。皆がいそいそとサリーに着替え、花弁を撒きながら王を称え出したのだ。これは一体どう言う事だ。

戸惑いながら年を越し、重たい腰を上げたのが昨日。ステータスとしては、前作を観ていないし、あらすじも読んでいないし、インド映画自体が初めてだ。こんなどビギナーが、ホイホイと王を称えに行っても大丈夫なのだろうか。とりあえず前夜からカレーを食べてコンディションを整えておいたが、不安が残った。

しかしそこはバーフバリ、多分開始1秒くらいで不安は吹っ飛ばされ、ついでに脳もぶっ飛ばされた。本当に荒いのに力づくで腹落ちさせられてしまう、「前回までのあらすじ」が流れたのだ。
ちょっとまだ脳が不安定なので記憶が曖昧だが、壮大過ぎる映像で畳み掛ける極彩色のドラマ、パワーワードしか表示しない字幕に、あっ、これは王を称えるしかないやつだな、と、どビギナーでも感じ取れた。
国母の目力凄まじい画で「前回までのあらすじ」が終了し、さらにその後、懇切丁寧に前作を復習させてくれるオープニングが流れ、いざ本編が始まった。

とにかくとんでもなかった。1秒たりともとんでもなくない瞬間は無かった。
バーフバリは凄い、バーフバリは強い、バーフバリという絶対正義を、観客の細胞レベルまで叩き込み続ける演出。観ているうちに、どの様な窮地に陥っても、バーフバリの顔がアップで写り、スローモーションなると安心するのだ。何故ならば、スローモーションの次のカットでは、敵は必ず根こそぎ倒され、花が舞い散り、ロマンスが天を疾走するからだ。この快感を何としたら良いのか。

某方が劇中に出てくるエクストリームインド兵器を、ピタゴラ的な例えで紹介されていたが、この作品自体が、壮大なピタゴラ御伽噺だと思う。ストーリーの奔流に身を任せていれば、御伽噺の絶対王者に望むものを、全てピッタリ欲しいところに与えて展開してくれるのだ。とんでもなく気持ちが良い。王を称えるしかない。

気持ち良くなりながら、画面に溢れる混沌とした情報量に圧倒され続けるのだが、バーフバリは絶対正義という法を護りさえすれば、全ては秩序をなして見えてくるから不思議だ。象、黄金、とんでも空中戦(人力)、次第にどんなアレンジバージョンが流れても、口ずさめるようになるシヴァ神の挿入歌……。王を称えよ……。
と、魅入っていたら、国母の目力凄まじい画がまた流れた。そう、なんと本編の半分以上が、息子バーフバリ誕生までの、父バーフバリのあれやこれやの内訳だったのだ!それで国母の目力から、改めて息子バーフバリの活躍ヨーイドン!なのである。
ある意味、真の「前回までのあらすじ」だ。「前回までのあらすじ」を観た後に「前回までのあらすじ」を観せられていたのだ。脳が乱れる!だがそれが良い!王を称えよォ!

という感じで雷鳴の如き父フバリの活躍の後に、息子バリの怒涛の活躍が改めて始まった。こんなにカロリーの高い親子丼初めて食べたよ。王を称えよ。
その後はもうとにかくはちゃめちゃに王を称えENDである。強い方が強いし、凄い方が凄いから勝つ。

映画を観終えて、猛烈に濃い演出に、体感的には100時間くらい経過しているかと思いきや、まさかの141分。昼の回だったので、劇場から出てもまだ外が明るかった。えっ、良いんですか、こんな下賤の身に、ゆとりある時間をお与えになるなんて……、と、脊髄反射で王を称える体になってしまっていた。

正直な所、この文章はオチまでモロバレしているのだが、観ないと何も分からないと思うし、私も自分で何を書いているのか分からない。脳波がマサラめいて、映画館を出てすぐにインド料理屋へ駆け込んだが、この口はカレーも受け付けず、ただ王を称えるしかなかった。
そもそも公式のコピーが壮大なネタバレをしているのだ。「王を称えよ」これが全て。

最後まで読んでくれた奇特な皆様も、そろそろ脳が乱れてきた頃かと思う。解決策として、上映期間が残っているうちに、早め早めに王を称える事を強くお勧めする。そして私は前作を観ておくから、一緒にインド料理を食べに行こう、な。